海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「ブラック・プリンス」デイヴィッド・マレル

1984年発表作。マレルといえば、映画「ランボー」の原作者として著名だが、その実力を遺憾なく発揮しているのは、本作から「石の結社」「夜と霧の盟約」と続く三部作となるだろう。短いショットを繋げていくスタイルは、スリラー作家の中でも飛び抜けてスピード感に溢れている。その分、緻密な構成は不得意なようで、緩急の付け方が弱い。前後の繋がりは雑で、伏線と思しきエピソードの未回収も目立つ。要は、勢いで読ませるタイプのため、プロットや人物造形の粗さに目をつぶれば、アクション小説好きにはたまらない作家だろう。

物語は、米国諜報機関による謀略を主軸とし、捨て駒にされた二人の工作員が〝育ての親〟である裏切り者への復讐に動くというもの。まやかしの絆がサブテーマのようだが、それほど深く掘り下げてはいない。また、殺しのモチーフ/小道具にバラを使うあたりは、良く言えば美学、悪く捉えれば気障な感じ。あくまでも活劇をメインとする姿勢を崩さず、B級テイスト全開で臨場感溢れる活劇シーンに力を注ぐ。
娯楽小説に徹するマレルは潔く硬派ではあるのだが、読了後は何も残らない。このサッパリ感が持ち味ともいえるのだが。
評価 ★★★