海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「九回裏の栄光」ドメニック・スタンズベリー

1987年発表作。都市再開発を巡る政治家・企業家の腐敗/犯罪を描いたノワールタッチの骨太な犯罪小説。タイトルからイメージする野球を軸にしたスポーツ・ミステリではない。
舞台は、米国地方都市ホリオーク。フリーの記者ロフトンは、マイナーリーグ所属の地元球団を独自に取材した記事をローカル新聞社に売り、生活費を稼ぐ不安定な日々を送っていた。そんな中、急激な再開発が進む街で不審な放火事件が続出。同時期に不可解な情況下で球団選手が殺された。一見無関係に見える二つのケースから漂うきな臭い悪徳の影。ロフトンは関係者をあたり調べを進めていくが、この街の事件が己の人生を変えることになるとは予想だにしていなかった。

ロフトンは、かつて大手新聞社のエース記者として辣腕を振るっていたが、有力者の不正に関わったことで失墜した。その悔恨があるからこそ、流れ者として生きる街の不正を曝くことに挑み、己の再生を懸けて闘うのである。
物語が分厚く力強いのは、主人公の矜持が徐々にかたちを成して、不屈の記者魂が呼び覚まされ、悪を紛糾する行動へと赴くまでの覚醒へと至る過程がしっかりと描かれているからだろう。

評価 ★★★☆

九回裏の栄光 (ミステリアス・プレス文庫)

九回裏の栄光 (ミステリアス・プレス文庫)

  • 作者: ドメニックスタンズベリー,佐藤ひろみ
  • 出版社/メーカー: ミステリアス・プレス
  • 発売日: 1990/06
  • メディア: 文庫
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