海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「9本指の死体」ジャック・アーリー

サンドラ・スコペトーネの別名義による1988年発表作。〝女性作家〟という読み手の先入観を嫌い異性のペンネームとしたのかもしれないが、本作はどこまでも女性的な視点/トーンに包まれている。原題は「ドネートと娘」。父親と同じ警察官の道を歩んだ娘がコンビを組み、互いに影響し合いながら成長するさまを描いている。

ニューヨークで修道女を狙った連続レイプ殺人事件が発生。シスターであること、死体の左手薬指が切断されていること以外、被害者に共通点はない。捜査チームを率いるのは、若くして警部補となったディナ・ドネート。彼女の部下には、巡査部長の父マイケルもいた。熟練刑事だったが、同じく警察官であった息子(ディナの兄)の不可解な死が原因となり、親子関係は破綻していた。長らく疎遠となっていた二人は、初めて捜査を共にすることにより、少しずつ信頼関係を修復していくが、その間にも第三、第四の犠牲者が続き、捜査は難航する。

フォーマットは警察小説だが、メインとなるのは父親と娘の刑事物語だ。ただし、新鮮味があるのは、自分の子どもが上司という中年男の悲哀のみ。父娘の交情や女刑事の恋愛などのやりとりは繊細で女性作家ならではの彩りだが、人間ドラマとして劇的な展開がある訳でもなく、総体的に弱い。サイコ・スリラーとしての評価も高いようだが、枝葉となるエピソードを盛り込み過ぎて、本筋が霞んでいる。肝心の犯人像もステレオタイプインパクトに欠ける。やはり、親子関係のもつれや、恋愛のロマンスに比重を置き過ぎているからだろう。家族の絆を主題にして物語を厚くしようという作者の意図は分かるが、単なる贅肉にしかなっていない。

評価 ★★

9本指の死体 (扶桑社ミステリー)

9本指の死体 (扶桑社ミステリー)