海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「子供たちはどこにいる」メアリ・ヒギンズ・クラーク

「サスペンスの女王」と謳われたクラーク、1975年発表作。多角的視点を巧みに用い、読み手を一気に引き込んでいく技倆は流石だ。発端から結末まで余分な贅肉が無く、秀れたサスペンス小説は、引き締まった構成によって生まれるのだと改めて感じた。

7年前、幼い我が子二人を殺害した罪に問われた女ナンシー。神経症を患い自白まがいの言動によって刑は確定寸前だったが、検察側の重要証人レグラーの失踪によって立証不可能となり、有罪判決は破棄された。直後、事態を悲観した夫カール・ハーモンは自殺。ケープコッドに移り住んだナンシーは容姿を変え、地元の不動産業者と出会い結婚、またも二人の子宝に恵まれていた。事件は、ナンシーが32歳となる誕生日の朝に起こった。地元紙に目を通した彼女は驚愕する。ハーモン事件の詳細と合わせて、現在のナンシーを特定する寄稿が掲載されていたからだ。新聞を燃やし、外で遊んでいるはずの愛する息子と娘の名を呼ぶ。だが、二人の姿はどこにもなかった。蘇る悪夢。地元警察は、母親がまたしても凶行に及んだと推定した。しかも、ナンシーとの不貞行為を疑われていたレグラーが、近場で目撃されていた。近づく嵐の中、駆け付けた夫や警察官は、錯乱状態のナンシーに尋ねる。子供たちはどこにいる?

細部/伏線を違和感なく収束させ、結末に至る一歩手前で全ての種を明かし、緊張感溢れるクライマックスに読み手を集中させていく。日常の変化、親子の交情などの描写に小道具を使う女性作家ならではのディテールが光る。殺人者の造型はやや常套的だが、サイコキラーの異常性よりも、短い物語の中で如何にサスペンスを高めるかという点に力を注いでいる。物語は僅か一日の出来事を追うのだが、終幕に近づくほどに激しさを増す嵐が、登場人物の心象と重なっていく情景描写も巧い。本作に対するサスペンス小説の手本という評価は妥当だろう。

 評価 ★★★