海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「善意の殺人者」ジェリー・オスター

1985年発表作。この作家独自のあくの強さが印象に残る警察小説で、なかなか読ませる。

発端はNY地下鉄。電車内で女を強姦しようとしたチンピラが、助けに入った正体不明の男に射殺された。偶然乗り合わせた乗客らは当然の如く逃亡した男をかばい、メディアも「善意の殺人者」として英雄的に扱った。だが、この事件直前、現場近くの麻薬ディラー殺害に同じ銃が使用されていたことが分かる。警察はプロの殺し屋ではないかと推測。間もなくして新たな殺しが発生した。あとに、被害者らはベトナム帰還兵という共通点があることが分かる。さらに不可解なことに「善意の殺人者」と同時期に、著名な女性ばかりを狙う別の連続殺人が起こり、捜査は難航。次第に二つの事件が微妙に絡まり、謎を紐解く鍵が浮かび上がってくる。

本作は、当時の米国ミステリでは〝馴染み〟となるベトナム戦争の後遺症を背景に置く。メインとなる章の合間に、殺人者に関わる戦場のエピソードをフラッシュバックで挿入、過去に呪縛された男の肖像を塗り固めていく。
短いストーリーだが、登場人物が多く、構成も多面的。序盤では誰を軸にしているのかが曖昧なのだが、中盤から一気に個性を発揮して印象を植え付けるのは、捜査陣の要となるNY市警殺人課警部補ニューマンだ。太った中年男で派手な服を好み、やたらと饒舌。人情味に溢れた好漢として描き、終盤へ向かうほどノワール色を強める流れをやわらげる存在となっている。プロットはやや強引だが、筆致は飾り気がなく実直。殺人者の動機が弱く、狂気の描写も抑え気味なのが惜しい。

評価 ★★★