海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「大統領候補の犯罪」ダグラス・カイカー

1988年発表作。派手さはないが味わい深い秀作「クラム・ポンドの殺人」に続く新聞記者マックシリーズ第二弾。
主要な登場人物はそのままに、よりメインプロットに重点を置いている。前作のなんとも言えない人間味溢れる情感は薄れているが、自らもジャーナリストであったカイカーが、本腰を入れて小説を書こうという意気込みは感じる。タイトル通り大統領候補として躍進中の男に関わる殺人事件が軸となるが、謎解きはささやかなもので、真祖に意外性もなく淡々としている。記者としての矜持を強めたマックが、決然と渡り合うさまが読みどころだ。前作で、マックとの〝喧嘩〟に明け暮れていた元妻の老犬マウマウとの微笑ましいシーンが少ないのが残念。
本作に限らず、つくづく思うのは、アメリカ人にとっては大統領選が社会生活の一部になっており、大衆は常に関心を持っているということだ。年代やジャンルを問わず、最近読んだ米国ミステリには殆ど大統領選が絡んでおり、本筋の核に据えている作品も多い。これが日本ならば、時代劇の悪代官が似合う冴えない議員連中を幾ら登場させてもさまにならず、読む気も起こらない訳だが……。

評価 ★★★