海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「キャリー」スティーヴン・キング

1974年発表、キングの実質的デビュー作。自身の創作術を述べた「書くことについて」(2000年)の中で、「キャリー」以前にバックマン名義の長編を上梓していたことを明かしているが、本作から〝モダンホラーの帝王〟の快進撃が始まったことは間違いない。売れない兼業作家だったキングは、ブライアン・デ・パルマによる映画化の大ヒットという幸運にも恵まれ、以降は次々と話題作/ベストセラーを連発。今も第一線で旺盛な創作活動を続け、質量ともに凡百の作家を凌駕している。
内容については改めて紹介するまでもないのだが、常人を超えた能力「念動力」を持つ女子高生キャリーが、狂信者である母親の虐待と同級生らの陰湿な苛めによって限界を超え、一夜にしてすべてを破壊し尽くす物語だ。
事件の検証委員会、ルポ、警察の調書、関係者の証言などの記録を随所に挟み、隔世遺伝による「超能力」継承など〝科学的〟要素も組み込んでいる。日常の中に突如現れる恐怖を、より俯瞰的に伝えるべく趣向を凝らしており、キングの意気込みを感じる。デティールを積み重ねた圧倒的な筆力で分厚い物語に仕上げる手法は流石で、やはり物語作家としての才があったということだろう。理不尽な身体的/精神的暴力といった今日的テーマも、本作が些かも古びていないことを再認させる。
「キャリー」は言うまでもなくキングの原点であり、モダンホラーの幕開けを告げた記念碑的作品である。

評価 ★★★★

キャリー (新潮文庫)

キャリー (新潮文庫)