海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「発動!N Y破壊指令」デヴィッド・ウィルツ

1985年発表作。米国陸軍特殊部隊の精鋭スティッツアー軍曹は、山中での演習時に誤ってコヨーテの穴に落ち、三日間閉じ込められて発狂した。その後は専門施設に5年間にわたり監禁されていたが、或る日、新聞を読んでいた男は、まるで啓示を受けたかのように突如脱走した。最後のミッション遂行。妄想のただ中にいる元軍人は、ニューヨークの街をソ連の首都と思い込み、たった一人で攻撃を仕掛けていく。

翻訳版タイトルや、表紙の装画からイメージする大規模な破壊を引き起こすのではなく、イベント会場の爆破や、貯水池に毒薬を仕込むなど、散発的なテロに近い。都市機能はある程度麻痺するものの、大きな混乱に陥ることはない。中途から明確となっていくのだが、そもそもウィルツの主眼は、パニックスリラーよりも人間ドラマを描くことにあったようだ。物語は、スティッツアーが父親代わりとなって面倒を見ていた甥カールが伯父を救うために奔走するさまを軸としている。ただ、どっちつかずの中途半端な作品となったことは否めなず、突飛な設定がまとまらないまま破綻している。終盤は下水道内でのマンハントが展開するが、スティッツアーとカールの和解が漠然と示されたのち、読み手を置き去りにして落着する。粗い構成を物ともせずに強引に押し切っていくB級テイストは、いかにもウィルツらしい作品といえるのだが、本作に関しては引き込まれる要素が無かった。

評価 ★★