ターニングポイントとなるハリー・ボッシュシリーズ第4弾。主人公はハリウッド署殺人課に所属する一刑事に過ぎないが、コナリーは群れること嫌う「一匹狼」的な存在として描いてきた。
本作は、第1作から伏線としてあったボッシュの母親の死の真相を追い求める物語で、これまで以上の私闘を繰り広げている。上司への暴力行為で休職処分となったことを機に、30年以上前の未解決事件を再捜査するのだが、埋もれた過去から浮かび上がってくる事実は、当然のこと痛みを伴う。娼婦であるがために引き離された息子と再び暮らすことを夢見ていた母親の思いを知るほどに、ボッシュは殺人者への憎しみを深める。
事件の性質上、全編がボッシュの単独捜査となり、より一層孤立感は深まっている。途上でボッシュの闇とも共鳴する女との情愛も挿入しているが、ロマンスの色合いは随分とくすんでいる。終盤において、愛する者の死さえも無常なる社会では泡沫にしか過ぎないことを、悔恨とともにあらためて悟るボッシュの姿が哀しい。
本筋とは直接関係ないが、ボッシュが野性のコヨーテと出会い、荒廃した自らの心象をダブらせるシーンは、静謐ながらも熱い心根を持つ孤独な男の心情を見事に表現している。恐らく生息地域による設定であろうが、強靱で孤高の力強さを想起させる狼ではなく、共通する部分はありながらも、より小型で寂寥感のあるコヨーテをモチーフにしたところに、コナリーのこだわりを感じる。
生存環境を奪われていくコヨーテ。闇に逃れつつも、蝕まれた世界を凝視する眼光。生き続けるための原動力となる餓えと渇き。そのイメージは、卑しい街で不条理な「死」と向き合い続けるしかない一人の男へと繋がっていくのである。
現代ハードボイルドの新たな地平を開くパイオニアとしてのマイクル・コナリーの存在意義は大きい。
評価 ★★★★
- 作者: マイクルコナリー,Michael Connelly,古沢嘉通
- 出版社/メーカー: 扶桑社
- 発売日: 1996/06
- メディア: 文庫
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