海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「闇の奥へ」クレイグ・トーマス

冒険小説全盛期の1985年発表作で、クレイグ・トーマス渾身の長編。原題は「The Bear's Tears」だが、日本版タイトルは作品中にも登場するコンラッド「闇の奧」に倣い付けられている。
KGBの謀略によって二重スパイ〈もぐら〉に仕立て上げられたSIS長官オーブリー。その救出に腹心の部下である工作員ハイドや元CIAの親友が乗り出すというメインプロットはいたってシンプルなもので、中盤まで明かされない英国情報部高官として暗躍する二重スパイの名も決して驚くべきものではない。本作の読みどころは、真相を知っているが故に敵味方の両組織に命を狙われる身となったハイドが、策略の証拠を手に入れるために、様々な極限的状況下で繰り広げる冒険行にある。特に作戦発案者であるKGB大佐を追ってアフガニスタンに潜入したハイドを待ち受ける地獄絵図は一番の山場であろう。闇の奧から忽然と現れ、人間を焼く尽くす炎。無常なる闘いの只中で〝野獣〟と化したハイドが吼え、走り抜ける。
冷戦下のスパイ/冒険小説に欠かせない〝仮想敵国〟旧ソ連の「怪物」ぶりも堪能できる。

評価 ★★★☆

 

闇の奥へ〈上〉 (扶桑社ミステリー)

闇の奥へ〈上〉 (扶桑社ミステリー)

 

 

 

闇の奥へ〈下〉 (扶桑社ミステリー)

闇の奥へ〈下〉 (扶桑社ミステリー)