海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「ただでは乗れない」ラリー・バインハート

1986年発表、ニューヨークの私立探偵トニイ・カッセーラシリーズ第1弾。イタリア系の元警官で、ジャンキーだった過去を持つ。企業買収によって成り上がった男の顧問弁護士殺害の真相を追うというストーリーだが、構成がすっきりとせず、数多い登場人物も整理しきれていない。何より、主人公の行動基準が曖昧でストレスがたまる。女がいないと駄目な男らしいのだが、メンタルの弱さは如何ともし難い。苦境に陥ったカッセーラは、ギャングと繋がる叔父を頼るのだが、死んだ兄(カッセーラの父親)と仲違いし、自らも敬遠していたはずの男に泣きつくのである。この節操の無さを現代の探偵ならではと捉えることも可能だが、ハードボイルドのヒーローとしては完全に失格である。マット・スカダー張りの暴力的な決着の付け方にも必然性が無く、逆に探偵の甘さ/若さを露呈する。ハードボイルドが急速に力を失った理由のひとつに、ヒーロー像の変遷があるのだが、見た目/スタイルが新鮮でも、中身が伴わなければ元も子もない。

評価 ★

ただでは乗れない (ハヤカワ・ミステリ文庫)

ただでは乗れない (ハヤカワ・ミステリ文庫)