海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「法王の身代金」ジョン・クリアリー

1979年発表作でスリラーの王道ともいうべき作品。重要な章の末文で一気に物語が変転する構成で、未曽有の犯罪に手を染めた者どもを襲う危機をテンポ良く描いていく。メインプロットは、資金源としてヴァチカンの財宝を狙ったIRAのシンパとプロの犯罪者らが、実行時に図らずも法王誘拐に至り、身代金を要求するというもの。本作のミソは、実行犯の一人がヴァチカンの広報官を務めており、誘拐後の動きを双方の立場から把握できるという点で、情況によってはより一層緊張感に満ちた場面が演出できる。法王自体はやや類型的な部分があるものの、時として暴力も辞さない熱血漢として一味加えている。
評価 ★★★

法王の身代金 (1979年) (角川文庫)

法王の身代金 (1979年) (角川文庫)