海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

虚構を超える現実

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以下はスティーヴン・キング「霧/ミスト」のレビュー中で書いたものだが、加筆した上で切り離し、『旅の記録』に収めておきたい。

2021年1月現在、現代を生きる全ての人が、出口の見えない同時的な不安、最悪の場合には死に至る予測不能な疫病蔓延の直中にいる。COVID-19。この無機質な略称のウイルスは、それ以上に無機質な統計上の数字となって〝現実社会の恐怖〟を冷徹に指し示す。現時点で世界の累計感染者数は8800万人、死者数は189万人(1月8日時点)。毎日1万5千人近くが死んでいる。想像を絶する数字だが、これが現実だ。
世界最多となる米国では当初の予測をはるかに上回る36万人が死亡。既に第二次大戦での同国戦死者数を超え、一日の死者数は3千人にまで達している。状況をさらに悪化させたのは、権力の座を死守するために地獄へと大衆を道連れにした狂乱のドナルド・トランプに他ならない。1月6日、この男が煽動した米連邦議会議事堂への支持者乱入/襲撃事件は、完全に理性を失った人間らの醜態を全世界に晒し、4年間にわたる暴政の終焉をトランプ自身が刻印した。それと同時に、追い詰められた果てに血迷った〝超大国の大統領〟が「核のボタンを押しかねない」恐怖が世界を駆け巡ったのだが、これも虚構ではなく現実の有り様なのである。この米国史上最悪の大統領は、建国以来曲がりなりにも歩んできた民主主義や人種差別撤廃への道を破壊し、旧態依然の極右/レイシストらが公然と暴力に走ることを〝可能〟にした時代に逆行させた。大統領在任中にトランプがどれほど民主政治を愚弄したかは、いずれ猛省のもとで検証されるだろうが、悪疫に苦しみ、未来への不安を抱える人々をさらに疲弊させた罪過は限りなく重い。

この国の現状も酷いものだ。政治が全く機能していない。現与党の無能無策により、日々感染者と死亡者は「過去最多」を更新し続けている。声高に「日本はまだマシ」と口角泡を飛ばし、腑抜けた醜い顔を晒す道化らは、トランプ隷属の〝狂信者〟と大差がない。人命よりも国家を支える経済(裏返せばカネヅル)を重視し、あろうことかいまだに「東京五輪」開催が〝人心の救済〟となると大嘘を吐き、破綻寸前のイベントを極一部の利権団体/企業と結託してゴリ押しし、さらなる感染拡大に力を注ぐ傲慢で浅はかな政治屋。虚栄の理念をエサに五輪開催を強要する金儲け至上主義組織IOCの〝日本支部長〟モリにいたっては「不安は全くない」と寝言を並べて、己の冥途の土産でしかないことを白状した。

これまで例のない短期間で開発され、安全性が完全には検証されていないワクチン接種に伴うリスクを誰が負うのか。人間の遺伝子を組み換えて抗体を作るという極めて危険なワクチンがもたらしかねない、近い将来のさらなる恐怖に対して誰が責任を負うのか。その遺伝子を受け継ぐ、これから生まれくる子供たちの未来に何が待っているのか。

この異常な状況下でさえ保身と搾取しか能の無い愚劣な者どもを信じて行動することは愚の骨頂であるが、これだけは予測/回避可能である。彼らの発言は、科学的/医学的根拠無き盲信/戯言に過ぎない。その言動に盲従することは、甘んじて死を受け入れることと同義である。「秘書」という名の生贄を捧げ、当人だけが〝救済された〟と妄想する厚顔無恥の卑怯者アベの如き、現実逃避/言い逃れは通用しない。恫喝することでしか肥大化した権力欲を慰撫できないニカイのような真性の俗物や、アベのおこぼれにあずかり薄汚い汁を啜り続ける凡人スガ、卑しさに於いては他を圧倒する傲慢破廉恥アソウ、それら数多の魑魅魍魎がこの国に為している惨状の本質を見抜き、徹底して抗うべきだ。この予断を許さない危機的状況に於いてさえ、政府は2020年12月「長射程巡航ミサイル」開発に血税355億円を充てることを〝独善的に〟決めている。人命を救うことよりも、人殺しの兵器に莫大なカネを投入することを優先するこの国の茶番こそ、紛れもないホラーであろう。

閑話休題……。常に不安を抱えた現在の息苦しい生活は、濃い霧の中にいるのと同じだ。

戦争や天災、人災がもたらす惨禍とは違う不条理な「死」と隣り合わせの状況に、国家/貧富/人種/宗教/老若男女に関わらず直面している。この災厄が降りかかる対象は、皮肉にも完全に〝平等〟である。だが、感染した場合には、前記項目に応じて歴然とした〝格差〟が生じ、生死は〝不平等〟のもとで決まることを痛感するだろう。さらには、感染者/非感染者という差別が公然と罷り通る人間社会の不条理を知るだろう。

誰一人として避けて通ることは出来ず、今日/明日がどうなるかさえ分からない。世界中の人々が「何を選択し、どう行動するか」の決断を迫られている。加えて、人間が無力であることも改めて思い知らされたことだろう。これから先どうするかを決めるのは〝預言者〟ではない。今を生きる我々一人一人が、状況を見極め、乗り越えなければならない。いつ霧が晴れるのかは、誰にも分からない。その中へと飛び込むか。それとも、じっと耐え忍ぶか。決断するのは、自分しかいない。