海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「ツンドラの殺意」スチュアート・カミンスキー

ソビエト連邦崩壊前、極寒のシベリア地方の小村を舞台とした異色の警察小説。エド・マクベイン「87分署シリーズ」へのオマージュらしいが、終始暗鬱なトーンに包まれており、アイソラの刑事たちが醸し出す躍動感は無い。
歪んだイデオロギーが暗流に淀み、自由無き閉塞感の中で、殺人事件の真相を追わねばならない刑事らの苦悩はしっかりと伝えている。だが、良い点は少ない。モスクワで発生した物盗り事件と並行して捜査が展開するモジュラー型だが、どうにも中途半端な構成で完成度を弱めている。謎解きも凡庸で強引さが目立つ。主人公の部下が国家主義を標榜するなど、体制批判よりも厭世的な達観の度合いが強い。
恐らく設定の奇抜さが受けて、MWA最優秀長編賞を受賞したのだろが、カミンスキーは他にもっと良い作品を書いているのではないか。

評価 ★★