海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「死体が転がりこんできた」ブレット・ハリデイ

1942年発表のマイアミの私立探偵マイケル・シェーン第6弾。同年にチャンドラーが「大いなる眠り」を上梓、ハードボイルド小説隆盛期に当たる。戦時下ということもあり、暗躍するナチスのスパイを絡め、この派にしては珍しくプロットに凝り、捻りを利かせている。主軸となるのは現金輸送車襲撃事件を巡るカネの争奪戦で、旧知のニューヨークの探偵がシェーンの事務所で事切れたことを幕開けとする。主人公はタフで知性的。文体は客観描写に徹し、テンポは良いが、やや殺伐としており、感傷の面では物足りない。手堅くまとまってはいるが、インパクトが弱いといった読後感だ。当時の米国で絶大な人気を誇り、いわばハードボイルドのスタンダードとも呼べるシリーズだったらしい。ハリデイの妻は、同じく著名なミステリ作家ヘレン・マクロイ。愛妻家である探偵の造形には、当時のハリディ家が反映されていたのかもしれない。
評価 ★★★