海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

2015-06-27から1日間の記事一覧

「不死鳥(フェニックス)を倒せ」アダム・ホール

60年代のベルリンを舞台に、暗躍するネオ・ナチス集団「フェニックス」壊滅を図る英国情報局員クィラーの単独行を描く。 設定はやや空想的な陰謀物だが、主人公はジェイムズ・ボンドの如き超人的ヒーローではなく、行動する際にはしつこいぐらいに思考する。…

「ファイアスターター」スティーヴン・キング

モダンホラーの帝王、スティーヴン・キング渾身の傑作。 米国政府秘密機関によって超常能力開発のための実験台とされた若者たち。殆どが適応出来ずに廃人となり、狂い死ぬ。だが、或る男と女は微力ながらも力を供え、二人は結婚し、やがて娘を授かる。類稀な…

「復讐戦」J.C.ポロック

活劇小説の傑作「樹海戦線」で冒険小説ファンを虜にしたJ・C・ポロック。あの感動を再び、と本書を手に取るが、どうも終盤まで盛り上がらない。 KGBの非合法工作員に妻を殺された元デルタフォースの男、その復讐劇をメインに描くのだが、血の滾りに欠け…

「マイアミ・ブルース」チャールズ・ウィルフォード

なんとも不思議な味わいが楽しめる作品だ。エルモア・レナードが絶賛するのも当然の作風で、小悪党と冴えない中年刑事を中心として飄々と展開する物語は、瑞々しいクライムノベルの魅力に満ちる。やる気があるのか無いのか、結局は事件を解決してしまう主人…

「マンハッタン連続殺人」ウィリアム・カッツ

ウィリアム・カッツらしいB級感たっぷりのサスペンス。若い女性ばかりを狙う連続殺人者はいたって平凡な造型だが、後半で犯人探しに協力する羽目になるというプロットが面白い。 評価 ★★★ マンハッタン連続殺人 (扶桑社ミステリー) 作者: ウィリアムカッツ,…

「ゴーリキー・パーク」マーティン・クルーズスミス

マイナーな作家に過ぎなかったマーティン・クルーズ・スミスの名をミステリ界に一気に知らしめた作品。 旧ソ連の人民警察殺人担当レンコ主任捜査官が、ゴーリキーパークで起きた不可解な殺人事件の謎を追う。舞台を敢えてソ連に置いたように、単純な謎解きで…

「ディーケンの戦い」ブライアン・フリーマントル

緻密な構成のプロットに唸る上質のスリラー。冷戦下ソ連の工作員の暗躍により、捨て駒となって滅んでいく元敏腕弁護士ディーケンの悲劇を描く。南アフリカ、イスラエル、ナミビア、サウジアラビアなど各国の荒んだ状況を巧みに織り交ぜながら、反政府組織や…

「暗闇の道」ジョセフ・ヘイズ

たった一冊、本作のみしか翻訳出版されていないのが信じられい位の傑作である。 物語は実にシンプルながらも、登場人物の造型は見事で無駄がない。事件発端からアクション映画の様なクライマックスまで、実質二日間の出来事を緊張感が途切れる事無く、一気に…

「俳優エディ・ブラック―殺しの代償」ウォルター・シャピロ

シャピロは、これ一冊しか紹介されていない。冴えない俳優エディ・ブラックが突発的に犯した殺人によって、その人生にどのような変化をもたらすのかに主眼を置いた、やや文学よりの渋いノワール。残酷な結末をとらず、殺しの代償は高くつくというアイロニカ…

「死者を侮るなかれ 」ボストン・テラン

結論から言えば、陰鬱で過剰な観念のみで作り上げられた大いなる愚作である。 意味不明な言動で身を滅ぼす小悪党どもと、頭の悪い自称実業家の小競り合いが繰り広げられる中、自分らを中心に世界が動いていると妄信する自意識過剰な殺し屋母娘と元保安官、こ…