海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「リスボンの小さな死」ロバート・ウィルスン

1999年発表、英国推理作家協会ゴールド・ダガー賞受賞作。ポルトガルを舞台とする異色のミステリだが、構成も変わっている。港街リスボンの浜辺で発見された少女殺害事件をめぐる現代のパートと、1942年ナチス・ドイツの特命を帯びた或る実業家の不穏な動きを交互に描くのだが、二つの物語には雰囲気や筋の流れ方に大きな隔たりがあり、切り替えがスムーズではない。愛憎もつれる人間関係を紐解く一人称の謎解きと、第二次大戦下の秘史を追う三人称のスリラーが、徐々に絡まりはするのだが、どうにも溶け合わず、最後まで別の小説を読まされている感じなのである。スケールは大きいが、結果的に小さくまとまっている。現代史に隠された暗い面を描くという意気込みは伝わるものの、個人的な復讐に終息してしまい、そこまでの長い経過が生かされていない。
著者は恐らく歴史パートが得意なのだろう。ミステリの分野になると、途端にぎこちない。共通するのは、男らは須らく利己主義で好色であるということ。登場人物誰一人として、共感できる者がいないとうのも痛い。恥辱に塗れたプロットは、リアリティよりも嫌悪感をいだかせ、罪と罰のあり方を曖昧にした結末も気になる。

評価 ★★

リスボンの小さな死〈上〉 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

リスボンの小さな死〈上〉 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

 

 

リスボンの小さな死〈下〉 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

リスボンの小さな死〈下〉 (ハヤカワ・ミステリ文庫)