海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「嘘、そして沈黙」デイヴィッド・マーティン

中途までは典型的なサイコスリラーだが、終盤に至って真相が明らかとなる時点でロス・マクドナルド的な家庭の悲劇へとシフトする。
文章は練られており、異常犯罪者の行動の描写にミスディレクションを仕掛けるなど芸が細かい。嘘発見器と呼ばれる退職間近の刑事は、主人公としてはいささか魅力に欠けるのだが、自らのまだ見ぬ孫に接するが如く犯罪被害者の子どもに向き合う姿は繊細な思いやりに満ち、蛇足とも思えるエピローグのエピソードには、作者の思いが込められているのだろう。
「嘘をついてくれ」という表題が、この作品の全てを物語る。

評価 ★★★★

 

嘘、そして沈黙 (扶桑社ミステリー)

嘘、そして沈黙 (扶桑社ミステリー)