海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「ランニング・フォックス秘密指令」ボブ・ラングレー

冒険小説の魅力を凝縮した1978年発表の秀作。大作ではないが、危険な任務に赴くことを厭わない男たちをスピード感溢れる筆致で活写し、やはりラングレーは希少な作家の一人であることを再認識した。

1976年、アフリカの独立闘争に揺れる英国植民地ローデシア(現ジンバブエ)で、現勢力の延命を懸けた秘密指令が発令される。軍情報部長官の独断で北イングランドにあるウインズケール核再修理工場からプルトニウムを盗み出し、原子爆弾入手で母国の情勢を変えようとする目論見だった。英国管理下でプルトニウムは厳重に守られており、近づくことは至難の業だったが、計画を起案したローデシア将校には秘策があり、無謀ともいえる極秘作戦を遂に実行に移した。

過去に秘密を抱えたローデシア将校ホイッティカー、IRA暫定派副参謀長クーガン、実弟をクーガンに殺されたSAS中佐パーカー、英国保安部長官ストレイカーという主要な男四人の行動を中心に、適度なロマンスも加えつつ、粗削りながらもラングレーならではの世界で登場人物が縦横無尽に動き回る。冒険小説ファンの心をくすぐる要素には事欠かず、軽妙なオチも爽やかな読後感を残す。 特に主人公を設定している訳ではないが、ラングレー自身の投影ともいうべき、〝冒険野郎〟ホイッティカーの生気溢れる活躍が本作の読みどころだろう。

 評価 ★★★★

 

ランニング・フォックス秘密指令 (創元推理文庫)

ランニング・フォックス秘密指令 (創元推理文庫)