海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「ファーガスン事件」ロス・マクドナルド

弁護士ビル・ガナースンを主人公とする唯一の作品。傑作ギャルトン事件を経て、リュー・アーチャーが透明な存在へと変わりゆく直前に、ロス・マクドナルドが躍動する生命感に溢れた本作を著したことは興味深い。過去にとらわれた家族の悲劇を主題としながらも、生まれ来る子どもに光明を見出すという希望に満ちた結末を用意している。緻密に練られたプロット、繊細且つ冷徹な人物描写など、成熟度は増している。孤独なアーチャーも魅力だが、家族への愛を謳い上げるガナースンも素晴らしい。
紛れもない秀作。

評価 ★★★★★