リュウ・アーチャーシリーズ長編第7作。
チャンドラーに倣った模索期を経て、独自のスタイルを本作の完成と共に築き上げたといっていい。円熟期に繫がる傑作ギャルトン事件は、すぐ後だ。
フロイトの影響下で、悲劇的な人間の業の末路を、暗喩を多用した見事な文体で描き出し、アーチャー自らが過去の罪を自戒するラストに至っては、ハードボイルドの枠に捉われない文学的香気を感じさせる。マクドナルドは、この時点でアーチャー自身を過去と訣別させたのだろう。同時に、それは新たなヒーロー像の模索を意味する。
透明な存在へと変わりゆくアーチャーの後ろ姿が哀しい。
評価 ★★★★★