海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「ミス・クォンの蓮華」ジェイムズ・ハドリー・チェイス

クライムノベルの雄、ハドリー・チェイス 1960年発表の作品。

舞台は、ゴ・ジン・ジェム政権下のベトナムサイゴン。所謂「ベトコン」が本格的なゲリラ活動を始めた時期で、当時の不安定な状況が物語に巧く活かされている。

本筋は、或る将軍が隠し持っていた時価数百万ドルのダイアモンドを巡って、アメリカからの流れ者、治安警察、中国人のクラブ経営者、小悪党らが、エゴイズム剥き出しで狂乱の宴を繰り広げるというもの。チェイスの徹底した人間不信により、クライマックスは当然一同総破滅となるところだが、本書のタイトルにもなっているニャン・リー・クォンという純真無垢な女の悲劇性が物語に一層の深みを与え、単なる犯罪小説で終わらせていない。

クォンを犯罪に引き込み、その薄汚い利己主義によって彼女を見殺しにするアメリカ人の男(一応、主人公)の不快さと、愛情のみを拠り所としつつも達観的最期を迎えるクォンの対比が見事だ。

評価 ★★★★☆

 

ミス・クォンの蓮華 (創元推理文庫)

ミス・クォンの蓮華 (創元推理文庫)