海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「極夜〈カーモス〉」ジェイムズ・トンプソン

49歳の若さで急逝したジェイムズ・トンプソンのカリ・ヴァーラ警部シリーズ第1作。時にオーロラが出現するフィンランド最北部の田舎町を舞台に、ヴァーラの近親者らをも巻き込んだ陰惨な連続殺人事件の顛末を描く。

タイトルにもなっている極夜〈カーモス〉とは、北極圏で2カ月間にもわたって太陽が沈んでいる状態のことで、その耐え難い闇の影響で鬱病となりアルコール中毒へと堕ちていく人も多いらしい。また、保守的で排外的な土地柄を背景に、ソマリア難民ら黒人への蔑視、キリスト教の一派であるレスタディウス派の異様な信仰、異常殺人は少ないが自殺率は高いなど、ミステリの要素としては極端に暗いものが並ぶ。

さらにメインプロットは、鬱屈した色と欲によって倍加された人間の愛憎と、その結果としての惨たらしい悲劇であり、ヴァーラをはじめ登場人物全てが過去の呪縛に悩みつつ、事件の進行と共にそれぞれの重圧と焦燥は高まっていく。

解決と呼ぶにはあまりにも悲惨な終結ののち、ヴァーラは逃避的且つ幻惑的な悪夢を視ることによってカタルシスを得る。そこに果たして救いはあったのか。トンプソンは読者に委ねるのみである。

ジェイムズ・エルロイの「ブラック・ダリア」へのオマージュであり、独自に深化した傑作ノワール

評価 ★★★★★

 

極夜 カーモス (集英社文庫)

極夜 カーモス (集英社文庫)