海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「死体置場で会おう」ロス・マクドナルド

1953年発表の第9作。執行猶予中の犯罪者を監督する地方監察官ハワード・クロスを主人公とする。前に「象牙色の嘲笑」、後に「犠牲者は誰だ」とアーチャーシリーズに挟まれたこの作品は、ロス・マクが今後の方向性を模索していた時期にあたる。クロスは体制側の人間ではあるが、人間の業を視詰める眼差しは鋭く、道理なき悪への怒りは激しい。愛読者としては、どうしてもアーチャーと比較してしまう訳だが、冷徹ながらも感情の起伏に激しく、積極的に事件へと介入する姿は、よりタフなハードボイルドの造型を目指した結果なのかもしれない。

情景描写での滲み出るようなリリシズムは既に完成しており、愛憎渦巻く登場人物の深層心理を見事な比喩によって表現している。誘拐に端を発する連続殺人事件というプロットは、複雑な人間関係の中に現在と過去を繋ぐ謎を解き明かすという馴染みのものだが、主人公は事件を通して人生の転機を迎えていく。エピローグは、やや唐突の感は否めないのだが、ロス・マクは孤独な探偵アーチャーには決して与えてあげられないものを、せめてクロスには授けたかったのだろう。
さらに、メインプロットに絡む私立探偵を登場させて、自嘲気味に〝卑しい稼業〟について述べさせているのだが、ロス・マクは今後もアーチャーの物語を続けていく中で、リアルな私立探偵について一旦「止揚」し、理想像としてのアーチャーの深化に着手すべくけりを付けたと勝手に深読みする。
 
評価 ★★★★