海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「罠にかけられた男」ブライアン・フリーマントル

 フリーマントルが小説巧者ぶりを発揮する1980年発表のチャーリー・マフィンシリーズ第4弾。希少なロシア皇帝の切手を餌に、狂的収集家のマフィアの首領を嵌める計画がFBIによって練られる。故意に盗ませて逮捕する目論みだったが、英国の保険会社への事前通達は無し。恩師の息子でもある会社代表の依頼を受けたチャーリーは米国へと飛び、展示会場の警備状況を調査する。不穏な空気を察したチャーリーは、両国諜報部から追われる身でありながらも、FBIの計略に対して防衛策を開始する。旧知のロシア情報部員も巻き込みつつ、ギャングや元軍人、さらにCIAらが入り乱れ、事態は最悪の結末へと向かっていく。
中盤まではクライム・ノベル調だが、チャーリーが本腰を入れて策を施すあたりから物語は一気に動き出し、最終的には謀略渦巻くスパイ小説に仕上げるあたりは流石だ。しかも、主要人物のほとんどが無残にも果てていく。例えシリーズものであろうと容赦しないフリーマントルの冷酷な筆致が冴え渡る。
評価 ★★★

 

罠にかけられた男 (新潮文庫)

罠にかけられた男 (新潮文庫)