1989年発表のメタ・ミステリ。いわゆるポスト・モダン的な文学志向の強い作品に位置付けられており、ミステリとしての水準は端から期待できない。
メディアでも活躍していた中年の造園家ウィズデンがホテルの一室で自殺した。妻のリビーは頑なに他殺を主張。真相を探るために、ホテルの警備責任者や医者、作家やカメラマン、さらには娼婦やウィズデンの愛人の子まで、総勢16人の〝探偵〟が、リビーの依頼を受けて動き出す。この異様な粗筋と、探偵役それぞれが文体を変えた一人称で語っていく設定がユニークだ。だが、幾らでも練り込んで面白いミステリに仕上げられる着想を、まったく生かさないのが〝メタ〟たる所以である。
敢えて無駄に多い登場人物と雑な伏線、一過性の無い構成や役に立たない造園のペダンティズムによって読み手を翻弄。探偵が集合する〝大団円〟と称した結末は、序盤から既に破綻しているカオスの残滓に過ぎず、衝撃ならぬ笑劇的なオチとなっている。初歩的で陳腐な謎解きを堂々と披露されては、本職のミステリ作家らは形無しだろう。真相を知る聞き手が唖然とすることによって物語が完成する、という括りでは、苦笑するしかない。結局はストレートな娯楽小説に飽き足りない文芸ファンに向けたアンチミステリなのだが、読み終えても本を放り投げたりしない大人の読者ならば、存分に楽しみ、本作の珍味を堪能することができるだろう。生憎、私には不味い代物だったが。
評価 ★★