1977年発表、プロスポーツを題材としたサスペンス小説の名編。テニスの国際大会「ウィンブルドン」を舞台に犯罪の顚末を描くのだが、本作がメインに据えているのは、若き天才テニス・プレイヤー二人が切磋琢磨し、頂点へと上り詰めていく過程だ。
豪快且つ正攻法のプレイで魅了するオーストラリアの俊英ゲイリー・キング23歳、天賦の才を持ち華麗な技術と純真な人柄で誰からも愛される亡命ロシア人ヴィサリオン・ツァラプキン17歳。この二人が図らずも出会い、テニスを通して友情を育んでいくエピソードを主軸にしており、何よりも青春小説として味わい深い。
ウィンブルドン決勝。時には相棒として数多の強敵を倒し、互いに待ち望んでいた日を迎えたキングとツァラプキン。一方、同日に向けて計画を練っていた犯罪者グループが脅迫を決行。試合が終了するまでに要求が満たされない場合、観覧する英国女王と勝者は殺される運命にあった。ゲーム開始後、ツァラプキンはその事実を知る。敬愛するキングを決して死なせはしない。勝つか、負けるか。すべては、自分自身のプレーにかかっていた。師弟関係にあり、最大のライバルでもある二人が、クライマックスとなる最終戦で熾烈な戦いを繰り広げていく。タイムリミットが迫る中、ボルテージは最高潮に達し、劇的なゲームセットへと至る。
読みどころは、当然のこと全編にわたり展開する白熱のゲームだ。ルールを知らずとも楽しめるように配慮されているが、テニスファンなら二倍も三倍も試合のダイナミズムを堪能できるだろう。
会話で辞書が手離せないツァラプキンの設定を、犯罪者との攻防で生かし、結末でのツイストに繋げる伏線も見事だ。中盤から一気に緊張感を高め、終盤へと自然に流れていく構成も巧い。極めて過酷なスポーツでもあるテニスの魅力を存分に伝える稀少なミステリである。
評価 ★★★★