海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「クリスマスのフロスト」R・D・ウィングフィールド

日本でも根強い人気を誇るフロストシリーズ。下品でくだらない冗句を吐き、警部でありながら単独行動を好むという著しく管理能力に欠ける一方で、憎むべき犯罪に対しては鋭く臭覚を働かせ、粘り強く犯人に迫っていく持久力を持つ男。極端な仕事中毒者として描いているが、裏を返せば私生活が満たされない孤独な一面もあるということだろう。主人公以外にもクセのある人物を多数配置することで、より一層フロストの変人ぶりが際立つのだが、デフォルメはドタバタ喜劇となる一歩手前で抑えられ、展開の邪魔にはなっていない。本作は1984年発表の第1作。放送作家としてラジオドラマに携わったウィングフィールドの経験が生かされ、その筆致はテンポが良く、ひたすらに読者を楽しませようという意気込みに溢れている。ただ、警察小説としてはボリュームがあるため、もう少し引き締めても良い気がした。物語はいわゆるモジュラー型で、同時進行で幾つもの事件を手掛けていく。まとめ上げるには相応の力量がいるが、雑になることなく整理している。ただ、読み終えて心に残るものは何も無いのだが、さっぱりとした軽い味わいも魅力のひとつなのかもしれない。

評価 ★★★

 

クリスマスのフロスト (創元推理文庫)

クリスマスのフロスト (創元推理文庫)