スティーヴン・キングが絶賛したこともあり、発表当時はかなり話題となった。ミステリ界の大物らが推薦するものは大抵が眉唾物なのだが、本作については妥当といえる。筋立てはいたってシンプルだが、強欲に溺るままに狂気の淵まで墜ちていく人間のあり様を容赦無く描き切る。特に中盤以降は凄まじい殺戮が展開し、下手なサイコ・スリラーよりも恐ろしい。素行の悪い兄やアル中の友人らを軽蔑し、己の倫理観のみは正常だと自負する主人公と妻が、結局は誰よりも下劣な悪人であり、何ひとつ満たされぬままに業火の中で生き続けばならないという皮肉な末路は、無辜の人々を殺した無為なる代償なのであろう。
評価 ★★★★★
- 作者: スコット・B.スミス,Scott B. Smith,近藤純夫
- 出版社/メーカー: 扶桑社
- 発売日: 1994/02
- メディア: 文庫
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