海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「ネオン・タフ」トニー・ケンリック

中国返還前の香港を舞台に、麻薬密売組織摘発に動くDEAエージェント/ ヒュー・デッカーの型破りな活躍を描いたトニー・ケンリック1989年発表作。本作を最後に翻訳は途絶え、才人ケンリック自身の創作活動も休止しているようなので残念だ。ミステリにスラップスティックの要素を大胆に取り入れ、ひと癖もふた癖もある登場人物と奇抜なアイデアを惜しみなく盛り込んだ作品の数々は、躍動感と爽快感に溢れた秀作揃いである。

「ネオン・タフ」は、〝笑い〟の要素を薄めて本格的なスリラーにシフトした後の時期にあたるが、強烈な個性を持つ人物らのやりとりは相変わらずユーモアに満ちている。何と言っても、煌びやかさと妖しさが融合した雑多な街「香港」の描写が最大の魅力だろう。成金や軍人、ギャングらの俗物根性を徹底的に茶化しつつ、大団円では花火を打ち上げる。極彩色に彩られたケンリック渾身の熱い一冊。


評価 ★★★

 

ネオン・タフ (角川文庫)

ネオン・タフ (角川文庫)