海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「踊る黄金像」ドナルド・E・ウエストレイク

事の発端は、南米の最貧国デスカルソで起こる。ここの国立博物館には、数千年以上も前に創作されたという黄金の「踊るアステカ僧侶像」が厳重に保管されていた。同国政府は新たな観光資源とするべく、僧侶像の複製を作り、安価な工芸品として売り出すこととした。サイズは小さなトロフィーと同じくらい。だが、依頼を受けた彫刻家は、役人と美術館警備員と結託し、密かにニューヨークの南北アメリカ美術館に売り渡す計画を練る。その価値は百万ドル。三人の偽装工作によって、僧侶増はアメリカ国内へと密輸された。だが、間抜けな手違いから受取人には渡らなかった。黄金像は複製品15体とごちゃ混ぜになったまま、或る民間団体の景品としてばらまかれてしまう。その事実を、航空便横取りで生計を立てていた地元グループが知る。踊る黄金像を手に入れろ。かくして、マンハッタンを舞台に大捜索と大争奪戦が繰り広げられていく。

ハメット直系のハードボイルドから離れ、コミカルなミステリへと転じたウエストレイクが量産していた単発物のひとつで、1976年発表作。この派の達人トニー・ケンリック登場まではウエストレイクの独壇場でもあったといえるのだが、軽快なタッチでドタバタ劇を盛り込んでいく筆力は流石だ。導入部や大きな場面展開の合間には、凝りに凝った散文を挿入。ただ、力の抜けたユーモアセンスは良いとしても、如何せん長過ぎる。多くの登場人物が「踊るアステカ僧侶像」を求めて、本物と偽物合わせて16体を個々に追うため、必然ボリュームは増し、構成は散漫となる。途中、文体を変えるという翻訳者の〝遊び〟で趣向を凝らしてはいるが、同じようなエピソードが繰り返されるのは辛い。コメディは短い方が引き締まる。ウエストレイクは相変わらず剛腕を発揮しているため、数多の奇人変人が入り乱れるナンセンスなファルスが好きな読者には、大いに楽しめるだろうが、ちょっと欲張りすぎた印象。
評価 ★★☆☆