海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「チャイナマン」スティーヴン・レザー

1992年発表作。英国からの北アイルランド分離独立を目指すテロ組織IRAの行き詰まりを描き出したスリラー。特に主人公は設けず、暴力に彩られた闘争が行き着く果てを極めてドライに活写している。章立てが無く、場面展開が早い。登場人物が多く、状況を多角的に繋いでいくため、やや混乱する部分もある。物語の主軸となるのは、IRAの無差別テロによって愛する家族を殺されたベトナム人の復讐。彼はベトナム戦争でサバイバルと爆弾の知識を経験から学んでいた。非情さで恐れられていたテロ組織の幹部らが、たった一人の老人が為す報復行為によって徐々にパニックに陥るさまがユニークだ。誰一人報われることがない結末には、作家となる以前は新聞記者だったレザーの達観的リアリズムを反映しているのだろう。物語の中では、常にアイルランドベトナムの闘争を比較。アイルランド問題についての立ち位置を本作のみで推し量ることは難しいが、テロリズムの不毛さを冷徹に描いていることには好感が持てる。
評価 ★★★