海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「サマータイム・ブルース」サラ・パレツキー

スー・グラフトンのキンジー・ミルホーンシリーズとともに〝女〟私立探偵小説に一時代を築いたパレツキーのV.I.ウォーショースキーの登場は、当時かなり刺激的で話題になった。当然それまでにも女性探偵がいないわけではなかったが、真っ正面からハードボイルドを踏襲したスタイルによって、同性の読者を中心にミステリファンを開拓した意義は大きい。

本作は1982年発表の第1作で、パレツキーの意気込みが全編に溢れている。ただ、〝タフな女探偵〟の造型がやや過剰なきらいがあり、事件の関係者と渡り合うさまに不自然さを感じる。フットワークが軽く、ひたすらに猪突猛進。とにかく喋りまくり、感じたありのままに喜怒哀楽を表現する。たいした証拠も無い相手に対し、直感でいきなり犯人呼ばわりするなど、現場を混乱させることも多い。

プロットにいわゆる〝ウーマンリブ〟を絡ませるなど、ジェンダーに関わる問題意識もあるが、まだ薄い。傷ついた子どもに対して〝母性的〟に接したすぐ後に、男との逢瀬をしっかりこなす割り切り具合は、女性作家にしか描けないエピソードだ。当時の〝現代的な女〟の生き方を象徴させる理想像として、より〝ハード〟な面を強調したのだろう。贔屓の球団の試合を気にする点や、反権威的な気質は、既存の私立探偵小説に倣っており、オマージュと対抗意識が散在している。そのしたたかさをどう捉えるかで、シリーズの評価も変わるだろう。

普段、くたびれた男の私立探偵小説ばかり読んでいるせいか、その差異は一層際立つ。だが、元気過ぎる探偵の行動についていけない私には、鬱屈としていながらも情感の流れる駄目な男たちのハードボイルドが性に合っているようだ。

評価 ★★☆☆