海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「27」ウィリアム・ディール

確かな世界観、魅力的な人物設定、分厚い物語の構造、巧妙な語り口など、全てが一級のエンターテインメント作品である。ヒトラー/ナチズム台頭期の不穏な世界情勢を背景とした上質のスパイスリラーであり、終盤での山岳地帯/孤島を舞台とする冒険小説としての要素も秀逸だ。暗鬱な戦争へと突入していく緊迫した情況を描いた中盤までの展開が特に素晴らしく、歴史の断面を鮮やかに切り取り、その只中で翻弄されていく人々の悲劇を密度の濃い筆致で抉り出している。

密造酒の取引で財を成し大富豪として安穏な生活を送っていた米国人キーガンは、混乱の極みにあった滞在先のドイツで、やがて恋人となるユダヤの血を引く女ジェニーと出逢い、その人生が大きく動いていくこととなる。やがて反ナチスユダヤ組織構成員の弟を持つジェニーは、裏切り者によって成す術もなく強制収容所で惨殺され、怒り狂ったキーガンは復讐を誓う。一方、米国が戦争に介入することを恐れていたヒトラーナチス極秘情報組織に命じて、或るスパイをアメリカに潜り込ませていたが、敗戦色濃い戦況を打破すべく密命を実行させることを決意。コードネーム「27」のスパイは満を持して行動に移る。同じ頃、帰国していたキーガンは難を逃れたユダヤ人から「27」の存在と殺されたジェニーへの関わりを知り、潜伏するドイツスパイの狩り出しに着手する。

大筋だけ追えばシンプルなものだが、往時の世相について、歴史的人物を織り交ぜて華やか且つ緊張感に満ちた空気感まで再現しており、書き込まれたディティールは半端なものではない。いわば、主人公キーガンの眼を通して、否応もなく戦争に巻き込まれていく国家/社会/人間の有り様を、或る意味俯瞰的にまとめた作品ともいえる。

 この一冊で作家ディールの類稀なる実力を思い知る傑作である。

評価 ★★★★★

 

27 (上) (角川文庫)

27 (上) (角川文庫)

 

 

 

27 (下) (角川文庫)

27 (下) (角川文庫)