海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「アンドロメダ病原体」マイクル・クライトン

才人クライトン1969年発表作。分野はSFとなっているが、不可解な謎の正体を探るサスペンス/スリラーとして読んでも何ら違和感はない。
物語を要約すれば、墜落した米軍の人工衛星に付着していた未知の病原体によって人類絶滅の危機が迫る中、予め選ばれた科学者らが叡智を結集し対抗手段を取るというもの。当時の科学/生物学/遺伝学などの知識をフルに駆使し、ドキュメントタッチの手法で、ラストまで一気に読ませる。人間が描かれていない、という指摘は概ね当たっているが、執筆時の20代後半という年齢を考えれば許容の範囲内であり、プロットの巧みさが欠点を補って余りある。導入部から結末まで適度な山場を作りながら、終盤にタイムリミットを設けるなど、ツボを押さえたハリウッド映画的な展開は、ベストセラーとなる必須条件を満たしている。

本作で特に印象に残ったのは、「異星の種族が他の文明との接触を試みる場合、最も確実な方法とは何か」という仮定を述べた部分。即ち、
それは「自己再生能力を持ち、大量に培養できる生物に他ならない。接触を遂げたのちに、成長し、増殖し、分裂する。細菌はやがて、コミュケーション器官を持つ」
簡潔でありながらも、よく考えられている。別の惑星に到達した後、長大な年月を経て進化の過程を辿り、そこの住人と交感する能力を持つ未知の生物。SFは門外だが、この筋立てで書かれた作品もあるのだろうか。

評価 ★★★★

 

アンドロメダ病原体〔新装版〕

アンドロメダ病原体〔新装版〕