海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「コンドルの六日間」ジェイムズ・グレイディ

CIA内幕を題材とするシリアスなスパイ映画として評価の高いロバート・レッドフォード主演「コンドル」の原作で1974年発表。主人公の名をはじめ、中盤以降の展開や最終的に暴かれる真相が異なるのだが、末端の諜報員が巻き込まれる謀略の顛末をドライに描き出している点で両作のイメージにずれは無い。

世界各国の出版物を分析し情報を抽出するCIA下部組織/外郭団体を武装した数人が襲撃、建物内の職員らを惨殺する。一時の外出で難を逃れた男マルカム(コードネーム「コンドル」)は、即刻CIA本部へと保護を求める。だが、その接触の場に待ち受けていたのは生き残りを葬るための騙し討ちだった。またも間一髪で死を免れたコンドルはそのまま潜伏し、前線のスパイ活動とは無縁な瑣末組織の壊滅を謀ったCIAの目論見を探る。やがて、同僚らが殺される直前の行動を調べ直したコンドルは、一職員がもたらした些細な報告が、CIA内部に巣食う背信者らを暴き出す鍵となっていることを突き止め、無謀で孤独な闘いへと身を投じていく。
主人公マルカムは序盤こそ冴えないが、決着までの6日間を通して、暴力さえいとわないタフな男として変貌、仕組まれた罠をすり抜けて反撃を加え、罪無きままに殺されていった者たちの遺恨を晴らす。

現実の諜報戦が決して清廉潔白ではなく、敢えて人倫に背くことによって目的を果たしてきたことは、史実の数々によって裏付けられている。超大国が覇権争いを繰り広げていた冷戦期、政府の中枢に陣取って大きな顔をしていた諜報機関の暗躍により引き起こされた紛争も少なくない。「陰謀の権化」は旧ソ連KGBの専売特許ではない。米国・CIAや英国・SISが「正義/自由」の側として振りかざす大義名分の裏に、排他的な偽善/独善があることは自明である。そして、時の権力者らの手先となって謀略に明け暮れた末に、肥大化した巨大組織は傲慢となるが故に必然的に内側から腐る。グレイディの着眼もそこにある。本作は、CIA自体を告発するものではないが、私利私欲に走る者どもによって国家組織が私物化され、共倒れしかねない実態を暴いている。 

評価 ★★★

 

コンドルの六日間 (1975年)

コンドルの六日間 (1975年)