海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「エリー・クラインの収穫」ミッチェル・スミス

謳い文句は「五感を刺激する」。翻訳された当時は、微に入り細に入り描写するスタイルが度肝を抜くという批評が並んでいた。物語自体はシンプルな警察小説で、ニューヨーク市警の「遊軍部隊」所属の女性刑事エリー・クラインを主人公とし、連続殺人事件の捜査を通して成長する過程をじっくりと描く。冴えない三流刑事をはじめとする登場人物らの造形は深く、雑多な人間関係を通して女刑事の孤独と焦燥が浮かび上がる構成となっている。特に通勤電車の中で相棒の死を悼み、街の情景と重ね合わせながらクラインの心情を綴るシーンは印象に残る。細々とした日常の積み重ねは、この場面への布石であったかのようだ。
1987年発表作で、刑務所を舞台とする次作「ストーン・シティ」はさらに話題となった。

評価 ★★★

 

エリー・クラインの収穫 (新潮文庫)

エリー・クラインの収穫 (新潮文庫)