海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「恐怖の関門」アリステア・マクリーン

生命を賭けた冒険のあとに訪れる静寂。愛する者を無残に殺された男。その復讐を果たしたばかりの海は、どこまでも凪いでいる。マクリーン作品の中でも、最も余韻の残るエピローグだろう。
冒頭から結末まで息つく暇もなく疾走する物語。恐らく、冒険小説に謎解きの要素を本気で取り入れたのはマクリーンが最初ではないだろうか。中盤まで一切の説明を省き、ひたすらに主人公の不可解な行動を追うのだが、徐々にパズルのピースが埋められ、全体像が明らかになっていくさまは、ミステリ本来のスリルに満ちている。この時期に絶好調だったマクリーンの迸る創作意欲と作品の完成度には圧倒される。

評価 ★★★★

恐怖の関門 (ハヤカワ文庫 NV 135)

恐怖の関門 (ハヤカワ文庫 NV 135)