海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「影たちの叫び」エド・ゴーマン

私立探偵ジャック・ドゥワイアを主人公とする1990年発表作。このシリーズは本作のみ翻訳されており、ゴーマンの他の作品も僅かな紹介しかなされていない。アメリカ社会の底辺に生きるホームレスが絡む犯罪を描くプロットは、シンプルで地味な印象。だが、凍てついた街の描写は陰影に富み、ハードボイルドの良質なテイストが味わえる。解説者が指摘している通り、ドゥワイアの魅力とは「優しさ」であり、事件の関係者一人一人への〝共感/共鳴〟の度合いは、やや過剰ともいえるほど。主人公は元警察官で俳優をしていたという経歴だが、この作品では生かされていない。

評価 ★★★

 

影たちの叫び (創元推理文庫)

影たちの叫び (創元推理文庫)