海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「解錠師」スティーヴ・ハミルトン

評判が良いのも納得のミステリで、スティーヴ・ハミルトンの才気を感じる秀作。或る事件から失語症となった少年が、図らずも金庫破りとして犯罪グループの一員となり、さまざまな経験を通して大人へと成長していくさまを鮮やかに描き出している。内的な台詞以外は少年が一切言葉を発しないという難しい設定でありながら、違和感なく物語を展開させる技倆は相当なものだ。或る障害を被ることで、芸術などの分野で特化した能力が生まれるという「天才」の創出は下手をすれば現実味の乏しい超人的なイメージへと陥るが、犯罪に加担する解錠師という特異な生業を与えることでヒーロー像を修正し、己の資質を闇の社会でしか活かせないジレンマを抱えた少年の孤独さを強く浮き立たせている。絵画を通してコミュニケーションを図る恋人とのプラトニックなやりとりも物語に深みを与えており、読後感も爽やかだ。特筆すべきは、やはり金庫破りのシーンで、カネや名誉のためではなく、不可能に挑戦する冒険心をストイックに表現している。

評価 ★★★★

 

解錠師 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

解錠師 (ハヤカワ・ミステリ文庫)