海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「大きな枝が折れる時」ジョナサン・ケラーマン

小児専門精神医アレックス・デラウェアシリーズ第1弾。「ロス・マクドナルドの伝統を受け継ぐ」という売り文句もあるが、清廉な主人公の立ち位置はともかく、ハードボイルド小説に不可欠な冷徹さや、罪を犯す人間の掘り下げ方などが浅く、処女作の段階ではまだ方向性が定まっていない印象。
1985年発表で、翻訳された当時は随分話題となった。一人称の語り口は明るいタッチで、ややシニカル。若くして引退同然の身でありつつも生活は安定し、恋人や友人との仲も良い。これは、題材とする幼児虐待の重さを少しでも軽減する狙いもあるのだろう。自身が臨床心理医であるケラーマンの体験が随所に生かされ、主人公を通した子どもたちに対する眼差しも優しさに満ちている。

プロットは、小児性愛者である金満家らが共謀して児童虐待を繰り返す犯罪の捜査をメインとするが、構成や人物造型に強引な部分も目立つ。非道の実態をリアルに描写することは避けており、異常者らの謀みを暴くミステリとしての体裁を崩すことはない。アレックスとコンビを組む刑事は性的マイノリティの設定だが、奇をてらっているようで、余分だと感じた。主人公を骨のある男として描いていることには好感が持てる。第2作以降の成長に期待といったところだ。

評価 ★★★

 

大きな枝が折れる時 (扶桑社ミステリー)

大きな枝が折れる時 (扶桑社ミステリー)