海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「誰が為に爆弾は鳴る」トニー・ケンリック

カイジャックなどのスラップスティックな傑作ミステリを何作も著わしたケンリックが、本作あたりからシリアスな作風へと路線変更し新境地を開拓した。
読んで驚く。これが意外と良いのだ。
止むに止まれず爆弾魔捜しをする元刑事の主人公の言動はハードボイルドそのものであり、過去に負い目を持ちつつも、ニューヨークの暗部に棲息する住人たちとは信頼関係を保ち、卑しい犯罪者を追い詰めていく過程は、濃密なサスペンスに満ちる。
特にプロレスラーだった父親の存在感が何気なく生かされるあたり、やはりケンリックただ者ではない。

評価 ★★★★

 

誰が為に爆弾は鳴る (角川文庫)

誰が為に爆弾は鳴る (角川文庫)