海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「特捜部Q ―檻の中の女―」ユッシ・エーズラ・オールスン

珍しいデンマークの警察小説ながら、すんなりと物語の世界へと入っていけた。街の情景や社会的な背景など一切無駄だといわんばかりに、著者が登場人物の造形に力を入れているためで、例えば舞台が他の国であっても何の違和感もないだろう。
重い悔恨に苛まれつつも己の職務を全うするために地道に真相を追い求めるやさぐれた警部補カールと、その助手で繊細でありながらも内に激しい暴力への衝動を抱えた正体不明のアラブ民族のアサド。相反するようでも、根底で共通する卑しい犯罪者への煮えたぎるような怒りが、たった二人だけの特捜部が事件を解決する原動力となっている。この魅力溢れるキャラクターの創造によって、本シリーズの成功は決まったようなものだろう。
本筋は、従来の警察小説に沿った地味な捜査活動を展開。犯罪者の動機や言動に弱い部分もあるものの、結末に向かって一気にボルテージを上げていくところは秀逸で、次作への期待を高める。

評価 ★★★★

 

特捜部Q ―檻の中の女― 〔ハヤカワ・ミステリ文庫〕

特捜部Q ―檻の中の女― 〔ハヤカワ・ミステリ文庫〕