海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「狂犬は眠らない 」ジェイムズ・グレイディ

スパイ映画の秀作コンドルの作者による新機軸のスリラー。
主役は、元スパイで現在はCIA管轄の精神科病院に入院中の5人。なんとか薬の力で正気を保っているが、彼らを担当した新顔の精神科医が病院内で殺され、まず自分たちが疑われることを覚った5人は病院を脱走し、真犯人捜しを始める。
元々は優秀なスパイであった彼らの行動は的確に真相へと近づくのだが、やはり狂った言動は抑えられず、方々で騒動を巻き起こす。だか、そのお陰で大きなヒントを得て次の展開へと繋がるという設定が巧い。伏線も絶妙で、陰謀を企てた大物がどんな輩であるかは、中盤できちんと示されている。
本筋はどちらかというとほのぼのとした逃走劇といった感じだが、途中で挿入される5人それぞれの過去、つまりは何故狂気の世界へと堕ちたのかを語るエピソードは、末端の非情なスパイ活動をリアルに描き、使い捨ての駒に過ぎない一人一人の重苦しく悲痛な叫びに満ちる。
旅の終わりは、悲哀と希望が入り混じったものだったが、爽やかな読後感を残してくれた。

評価 ★★★★

 

狂犬は眠らない (ハヤカワ・ミステリ文庫 ク 14-1)

狂犬は眠らない (ハヤカワ・ミステリ文庫 ク 14-1)