海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「フランキー・マシーンの冬」ドン・ウィンズロウ

畢生の大作「犬の力」の後に上梓された本作は、イタリアン・マフィアの熾烈な血の抗争を主題に、またしても分厚い物語を構築している。凄まじい緊張感を強いる「…力」に比べ、ウィンズロウの本質により近いファルスのムードが前面に出ており、多少の粗はあるもののエンターテイメント小説として充分楽しめる作品だ。「ゴッドファーザー」の如き〝血の掟〟に縛られるような厳格な世界ではなく、社会の片隅に生息し、全盛期を過ぎてもなお強欲なマフィア幹部らの醜態をドライに描き、アイロニカルな展開で読ませる。

導入部では、裏稼業を引退して多様な事業に勤しむ主人公フランク・マシアーノの私生活に関するこだわりが延々と続き、ウィンズロウ・ファンには馴染みのサーフィンへの偏愛も滔々と語られていく。さらに、引退したマフィアの殺し屋とFBI現役捜査官がサーファー仲間であることを示した後、ようやく本筋が動き出す。目先の金に釣られて罠に掛かったマシアーノは、図らずもマフィアの裏社会へと再び引きずり込まれる。殺人犯として逃亡する中、マシアーノは事の真相を探るために、決して消すことの出来ない過去を振り返る。それは、昔も今も変わらない世界、過剰な暴力を用いて覇権争いを繰り広げるギャングらの狂宴に他ならず、そこには伝説のマフィア〝フランキー・マシーン〟の名がしっかりと刻み込まれていた。

本作は、弱小マフィアに属する無法者らが成り上がり/衰退していくさまを、膨大なエピソードを積み重ねて構成しており、登場人物も非常に多いため、読んでいる間はかなりのエネルギーを消耗する。意外にも〝フランキー・マシーン〟の敏腕ぶりは、あまり伝わらない。機知よりも瞬発力に優れ、反骨よりも日和見に傾く主人公よりも、混沌とした挿話の数々に面白さを感じた。終章では、冒頭の伏線をきっちり生かし、ウィンズロウならではの爽やかな余韻を残してくれる。
評価 ★★★

 

 

フランキー・マシーンの冬 上 (角川文庫)

フランキー・マシーンの冬 上 (角川文庫)

 

 

 

フランキー・マシーンの冬 下 (角川文庫)

フランキー・マシーンの冬 下 (角川文庫)