海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「女テロリストを殺せ」ギイ・テセール

フランス人作家による1980年発表のスパイ・サスペンス。

ヨーロッパ各地でテロを主導するドイツ生まれの女テロリスト、ビルギット・ハースの行動は常に監視下にあった。ハース逮捕によって自国内での報復的なテロ激化を憂慮したドイツ情報部は、フランス国土保安局に対して或る極秘情報を提供して取引を持ち掛け、ハース暗殺を依頼する。過激派による外務大臣誘拐を阻止した国土保安局局長アタナーズは、交換条件であったハース殺しに着手。その計画とは、一般人の男を囮に使ってハースに接近させ、痴情のもつれによる偽装殺人に仕立てるというものだった。選ばれたのは、失業中で妻にも逃げられた冴えない男ボーマン。早速アタナーズは、巧妙に罠を仕掛け始めた。

冒頭で既にボーマンは殺されており、計画が失敗したことは予め提示されている。彼がどのような経路を辿り、哀れな末路を迎えたのか。ハースとの関係はどのよなものであったのか。プロット自体は複雑なものではなく、登場人物の行動と心理を丹念に追うことでシリアスな雰囲気を作り出し、国家の謀略に巻き込まれた一人の人間の悲劇をメインに描き出していく。

評価 ★★☆

 

女テロリストを殺せ (文春文庫 (275‐6))

女テロリストを殺せ (文春文庫 (275‐6))