海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「ボビーZの気怠く優雅な人生」ドン・ウィンズロウ

不覚にもラストシーン数行は涙で翳んでいた。物語作家としてのウィンズロウの底知れぬ才能に平伏し、惚れ直す。テイストはクライム・ノベルだが、苦いユーモアを交えた先の読めない奇抜なプロット、ロードムービー的な展開の中で繰り広げられる臨場感溢れる活劇、登場人物一人一人の息遣いまでも感じ取れる秀逸な造型は、エンターテイメント小説の見事な完成形といえる。

やさぐれていながらも胸の内に強さと優しさ秘めた男、一見不純な殻をまといながらも美しい心根を持つ女、そして孤独で愛情に餓えつつも純真な逞しさで大人たちを癒やしていく少年。血の繋がりがないこの三人の愛情の交感に心は揺さぶられ、何とも言えない幸福感に満ちた余韻に浸らせてくれる。

久しぶりに、また再読したいと思わせてくれた大傑作。

評価 ★★★★★☆☆

 

ボビーZの気怠く優雅な人生 (角川文庫)

ボビーZの気怠く優雅な人生 (角川文庫)