海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「眼下の敵」D・A・レイナー

1943年の大西洋を舞台に、ドイツ潜水艦とイギリス駆逐艦との一対一の闘いを描いた有名な戦争小説の一つだが、期待が大きすぎたのか肩透かしを食らう。「相手の手の内を読み、裏をかく」という、一歩間違えれば「死」の駆け引きが展開されていくのだが、どこか牧歌的で緊張感に欠けるのだ。恐らくそれは、淡々とした筆致にあるためで、しかも艦船独自の呼称や記号が多用されることにより、スピード感と臨場感が失われている。敵対する両艦長の造型も薄く、人間的な魅力に乏しい。

評価 ★★

 

眼下の敵 (創元推理文庫)