1989年発表作。装丁や粗筋からは、人型ロボットが暴れ回る〝SF軍事スリラー〟という印象を受ける。たいして期待せずに読み始めたのだが、本作は近未来の戦争をシミュレートした無機質な戦闘物ではなく、冒険のロマンを絡めた実に読み応えのある力作だった。
〝主人公〟は、アメリカ国防省が20億ドルをかけて極秘裏に開発した実践型戦闘ロボット「ソロ」。最先端テクノロジーを集積した人口知能(AI)を搭載、独自に通信衛星とコンタクトし、あらゆる情報を瞬時に取得/解析/判断し行動する。言語能力にも優れ、違和感無く会話可能。武器は装備していないが、戦闘マシーンとして人間を遥かに超えた機能を持つ。外見は、全身を硬い装甲に身を包んだ兵士。危険を察知して回避する人間に近い〝恐怖感〟などの感情もある。まだテスト段階にあったが、上層部は実戦に投入。しかし、独自の〝正義感〟に覚醒したソロの反抗を招いてしまう。
舞台はニカラグア。1979年、ソモサ独裁を倒したサンディニスタ政権は共産主義国家を樹立した。一方、中南米におけるソ連の衛星国化阻止を目論む米国政府は、コントラ(親米反政府民兵)を軍事援助し、隣国コスタリカを拠点にゲリラ戦を展開していた。物語は以上を背景に置く。どのような国家体制であっても、差別され、否応も無く戦いを強いられてきた人々にも焦点を当てており、作者の視点は鋭く、深い。
インディオの末裔が住む集落ラス・クルーサス村に、突如現れた天才的頭脳と戦闘能力を持つロボット。村の子どもの命を救ったことをきっかけに、ソロは急速に交流を深める。その中で〝彼〟は成長し、影響し合い、親愛の情を育てる。やがて、米国CIAの特殊部隊とコントラは、ソロ奪還のため村を襲撃、凄まじい戦闘を繰り広げていく。そして、村人を守る側に立った戦闘マシーンは〝燃える男〟と化す。
本作が最も優れている点は、やはり主人公ソロの造型だ。純粋なひたむきさと孤独を繊細に表現している。愛する者たちを救うために立ち上がる勇姿が心を打つのは、何気ない日常のディテールがしっかりと描かれているからだろう。
訳者後書きによれば、メイスンはかなりの苦労人らしく、その波乱の半生で得たものが、ひと味違うヒューマンな物語に生かされているようだ。自然や生き物の描写も美しい。生きることについての省察を盛り込み、生命の無いソロがやがて人間の感情を理解し、悲惨な状況にある者に癒しを与えていく流れもいい。さらには、村の少女に淡い愛情をいだく切ないシーンもある。
読み手がニヤリとする粋な結末も用意。執筆の動機などを記した巻末の「作者のノート」を読めば、絶え間ない探究心が生み出した成果であることが分かる。テイストはB級であろうが、本作は立派な冒険小説なのである。
評価 ★★★★