海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「眠りなき狙撃者」ジャン=パトリック・マンシェット

ロマン・ノワールの神髄に触れることができるマンシェット1981年発表の遺作。最後の仕事を終え、引退を決意した殺し屋を阻む闇の組織との無情なる闘い。徹底した客観描写で情景を描き切る真にハードボイルドな文体を、フランス文学者・中条省平の気合いの入った翻訳が生き生きと甦らせる。無駄の無いスピーディな展開の中に、孤独な殺し屋の生い立ちとトラウマを表出させ、裏切りと罠によってタフな男が脆くも崩れ去っていく様を、極めてドライに活写していく。終盤、愛人の不貞によるショックで失語症となるというエピソードは余りにも感傷的過ぎるが、言葉を発することなく黙々と復讐劇を繰り広げる暗殺者は異様な迫力に満ちている。

評価 ★★★★

 

眠りなき狙撃者 (河出文庫)

眠りなき狙撃者 (河出文庫)